コンペンセイティング・システムは1874年にBoosey & Co.(ブージー&ホークス社の前身)の
設計責任者であった音響学者David J. Blaikleyが考案したもので1878年にその特許が認可されました.
現在では単にコンペンセイティング・システムと呼ばれますが,ブージー・オートマティック・システムと呼ばれていたこともありました.
現在,この機構を採用している楽器としては,バリトン,ユーフォニアム,テューバがあります.
金管楽器の音程を補正する機構,コンペンセイティング・システムとは一体どのようなものなのでしょうか?
まずは下の写真を見てください.
<表>
これはWillsonのコンペンセイティング・システム搭載のEuphoniumのピストン部分の写真です.
コンペンセイティングシステムのついている楽器はついてない楽器に比べると管がいくつか増えています.
ピストンの部分から小さい管が出ているのがわかるでしょうか?
またそのためにピストンの長さも長くなっています.
<裏>
現在,多くの金管楽器のピストンは一番管を押すと全音下がり,二番管を押すと半音下がり,三番管を押すと全音半下がり,
四番管を押すと二音半下がるようにできています.
しかし,これらの音程は,各開放音からの音程であるため,一番管を押した状態から半音下がるための管の長さは二番管より多少長くなければなりません(音程が低くなるほど半音に相当する管の長さが長くなるため).
そうすると一,二,三,四番のすべてのピストンを押した場合に鳴る音は,意図してる音程よりもかなり高くなってしまいます.
(もともと2つ以上のヴァルヴを組み合わせて下げた音というのは,本来の音よりも少し高くなっています.例えば,
3番ヴァルヴが短3度,音を下げる働きを持っているとすると,この管は開放の状態の管の長さの1/5の管を持っていなければなりません.
しかし,1番と2番がすでに使われている状態では,そこから短3度音を下げるためには1+1/8+1/15=143/120の1/5の長さが必要です,
しかし,3番ヴァルヴはこの長さには足りないので,1/4音高い音程になってしまいます.)
しかしコンペンセイティング・システムのついている楽器は
4番のピストンと他の3本のピストンのどれかを同時に押すと
その後ろについている短い管の中にも空気が流れ,これによってコンペンセイティングシステムのついていない楽器よりも
管が少しずつ長くなり音程が低くとれるようになります.
これによって低音域での音程が改善され,通常の金管楽器では構造上出すことが困難なlow Bbの下のH音を通常の運指で
正確に出すことができるようになります.
ここまでに述べてきたものは4本ピストン・ヴァルヴの楽器において4番ピストンを押した場合にその機構が働く楽器における例ですが,
3本ピストン・ヴァルヴの楽器の3番管(3番管とそのほかのヴァルヴとの組み合わせで働く)に,この機構を採用しているもの(ベッソンのバリトン,オールド・ベッソン,ブージーの3本ピストンのユーフォ,テューバ,ブージーのテナー・ホルン),また,オールド・ベッソンのPrototypeと呼ばれる楽器のように4本ピストンの3番管にこの機構を採用したものもあります.
しかし,現在最も多くその構造が用いられているものは,4本ピストン・ヴァルヴのユーフォニアムと,3本,または4本ピストン・ヴァルヴのバリトンです.
これらに共通して言えるのは,これらの機構がすべてピストン・ヴァルヴに組み込まれていることでしょう.迂回管を増設するためにピストンが通常のものより長くなっていることからもわかるように,ロータリー・ヴァルヴにこれを組み込むことは難しい様です.
また,このような便利な機構が開発される以前にヴァルヴ・システムを搭載した楽器において音程調整用の試みがなかったわけではありません.
ベッソンが開発したCオーケストラ・テューバは5本ヴァルヴで,2全音の第4ヴァルヴを持ち,
それは第4ヴァルヴとともに3半音用としてもはたらきました.
第5ヴァルヴは移調用でシャープ形の調での運指を楽にするために半音音を下げることができました.
ベッソンはこのテューバに1880年6番目のヴァルヴを加えました,これは完全5度音程を下げるもので低いD'が演奏可能になりました.
また,この他の音程補正システムに関してはこちらを参照してください.